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APT・標的型攻撃約24分で読めます

APT攻撃とは?生成AIで変わる国家支援型サイバー攻撃の手口と企業の対策

執筆:ホワイトハッカー攻撃演習・弱点診断編集部

組織のネットワークの奥へ、AIエージェントを伴う侵入経路がひそかに伸びていく様子を表したイラストと、記事タイトル

この記事の要点

  • Anthropicは2025年11月、中国の国家支援型グループと「高い確度」で評価する攻撃者が、偵察や侵入などの戦術的な作業の80〜90%を同社のAIに担わせ、約30の組織に侵入を試みたと公表しました。
  • Microsoftは2026年10月、中国国家に連なるStorm-0940がAIペネトレーションテスト基盤ARTEXで攻撃を自動化し、標的化から特権アクセス取得まで3時間未満の事例が複数あったと報告しています。
  • 一方でGoogleは2026年9月の報告で、完全に自律した攻撃の仕組みが実際の標的に使われた例はまだ観測していないとしています。編集部の整理では、AIで変わったのは主に速さ・規模・言葉の自然さです。
  • 日本では警察庁などが、中国の関与が疑われるMirrorFaceの攻撃(2019年頃から)や、AIの顔画像交換ソフトで面接を受ける北朝鮮IT労働者の手口を公表しています。
  • 編集部の整理では、対策の中心は公開機器の修正、権限と連携アプリの棚卸し、ログの別保存、送信者や応募者の確認手順で、AI時代に変わるのは対策に許される時間の短さです。

APT攻撃(Advanced Persistent Threat)は、特定の組織に侵入して長く潜伏し、時間をかけて目的の情報を探し出して盗む標的型攻撃を指す言葉です[18]。日本でも、国家の関与が疑われる攻撃グループによる機密情報の窃取や、暗号資産などを奪う外貨獲得目的の攻撃が確認されています[12]。2025年から2026年にかけて、Google・Anthropic・OpenAI・Microsoftが相次いで、こうした攻撃者が生成AIやAIエージェントを攻撃に組み込んでいると報告しました[1][6][7][10]。

一方で、「AIが人間抜きで国家レベルのハッキングをこなす」というイメージは、報告の中身より先走っている面もあります。この記事では、2026年10月27日時点の一次情報をもとに、APT攻撃の基本、AIで実際に変わったこととまだ起きていないこと、日本の組織が狙われる典型的な流れ、そして経営者・情シスが今月から取り組める対策を整理します。

なお、攻撃者の帰属(どの国・どのグループか)は、いずれも発表元の評価です。本文では、発表元が使った確度の表現をそのまま添えています。

APT攻撃とは?標的型攻撃とどう違うのか?

APT攻撃は一般に、標的型攻撃のうち、侵入後も長く潜伏し、目的の情報にたどり着くまで攻撃を続けるものを指します。IPAは、侵入後に組織に潜伏し、外部のサーバーと連携しながら時間をかけて情報を探し、盗み出す点を特徴に挙げ、こうした攻撃が海外などで一部APTとも呼ばれるとしています[18]。

警察庁は、国家の関与が疑われるサイバー攻撃として、重要インフラを機能不全に陥れる「サイバーテロ」と、政府機関や先端技術を持つ企業から機密情報を盗む「サイバーエスピオナージ」を挙げ、暗号資産などを盗んで外貨を得る攻撃も発生しているとしています[12]。警察が確認したサイバー攻撃には、国家を背景とする攻撃グループの関与が疑われるものが複数あり、これらのグループは情報通信、先端技術・製造、学術研究などの分野を主な標的にしているといいます[12]。

「標的型攻撃」は特定の組織や人を狙う攻撃全般を指す広い言葉です。APT攻撃はその中でも、国家などの後ろ盾、長期の潜伏、目的を果たすまでの執拗さを備えたものと考えると分かりやすいでしょう。侵害が年単位で続くこともあり、日本を狙ったMirrorFaceの事例では、メール攻撃による感染が原因とみられる侵害活動が2024年5月頃まで続いていた例が確認されています[11]。

Microsoftは、中国・イラン・北朝鮮・ロシアの国家による攻撃活動が、重要なシステムやID(アカウント)への「信頼されたアクセス」を手に入れ、長く保つ方向へ進んでいるとしています[9]。APT攻撃は攻撃グループ単体で動くとも限りません。2026年10月9日、国家サイバー統括室と警察庁は、中国政府と関連がある企業「永信至誠科技集団(ITG)」が他の中国関連の攻撃グループによる侵害を可能にしていると指摘する、米国作成の国際アドバイザリーに共同署名しました[17]。

本記事で取り上げる主なAPT攻撃グループ(2026年10月27日時点)
グループ(発表元の呼称)背景とされる国と確度主な標的・目的AIとの関わり
MirrorFace(別名 Earth Kasha)中国の関与が疑われる(警察庁・内閣サイバーセキュリティセンターの評価)[11]日本のシンクタンク、政府関係者、政治家、マスコミ、半導体・製造・情報通信・学術・航空宇宙[11]公表資料にAI利用の記述はない
GTG-1002(Anthropic)中国の国家支援型(Anthropicが「高い確度」で評価)[1]大手IT企業、金融機関、化学メーカー、政府機関など約30組織[1]戦術的な作業の80〜90%をAIが担った(標的の選定と重要な判断は人)[1][19]
Storm-0940(Microsoft)中国国家に連なる(Microsoftの表現は「China-state aligned」)[10]多業種のデータ窃取。ConnectWise(同社も被害を公表[20])のサプライチェーン侵害の実行者とMicrosoftが評価[10]AIペネトレーションテスト基盤ARTEXで攻撃を自動化[10]
GTG-20006(Anthropic)ロシア。Midnight Blizzardと結び付ける公開報告と「整合する」とAnthropicが説明[2]ウクライナと欧州を中心に、政府・防衛・外交などの20を超える組織[2]検知されたマルウェアをAIエージェントが作り直した[2]
APT42(GoogleはCALANQUE IONと改称)イラン政府の支援を受ける(Google)[5][6]特定の個人への標的型の働きかけ[5]標的のメールアドレス探し、接触の口実づくり、翻訳、盗んだデータの要約[5][6]
WaterPlum(関連名称 Contagious Interview)北朝鮮。警察庁とFBIは朝鮮労働党の軍需工業部313総局の指揮下と評価[13]日本を含む各国のIT技術者・求職者、暗号資産[13]メンバーがAIの顔画像交換ソフトでオンライン面接を受けていた[13]

帰属と確度は各発表元の評価です。同じグループでも発表元ごとに呼び名が異なり、改称されることもあります。

生成AIでAPT攻撃の何が変わったのか?

大きく変わったのは、攻撃の速さと規模、そして言葉の壁です。AIは当初、調べもの・翻訳・コードの手直しを手伝う「助手」として使われていました[5]。2025年後半からは、攻撃者が組んだ仕組みの中でAIエージェントが偵察から侵入、盗んだデータの整理までを進める事例が報告されています[1][2]。

  1. 2025年6月(11月公表)

    LLMに問い合わせるマルウェアが実戦に

    Googleの脅威インテリジェンス部門(GTIG)は、ロシア政府の支援を受けるAPT28がウクライナへの攻撃で、実行中にLLM(大規模言語モデル)へ問い合わせるマルウェアを使ったと報告しました。GTIGとして、実運用でLLMに問い合わせるマルウェアを観測したのは初めてとしています[4]。

  2. 2025年9月中旬(11月公表)

    AIが攻撃作業の大半を担ったスパイ活動

    Anthropicは、中国の国家支援型と評価するグループが同社のAI「Claude Code」を悪用し、約30の組織への侵入を試み、少数で成功したと公表しました[1]。

  3. 2025年10月

    日本語を含むフィッシング文面の作成

    OpenAIは、中国の情報収集の要求に沿う特徴を持つ中国語の攻撃者グループが、中国語・英語・日本語でフィッシングの文面を作っていたとして、アカウントを停止しました[7]。

  4. 2026年2月

    AIが国家支援型攻撃者の「欠かせない道具」に

    GTIGは、国家の支援を受ける攻撃者にとってLLMが、技術調査、標的選び、巧妙なフィッシング文面の素早い作成に欠かせない道具になったと報告しました[5]。

  5. 2026年9月

    AIが攻撃を「指揮」する段階へ

    Anthropicは、2025年12月〜2026年8月に対処した中から、典型的ではない特に目立つ事例として報告したサイバー攻撃の過半で、AIが直接の実行役または指揮役だったとしました[2]。GTIGは、中国系のスパイ活動グループがAIで自動ペネトレーションテストの仕組みを設計しようとしていたと報告しています[6]。

  6. 2026年10月1日

    Microsoft Digital Defense Report 2026

    Microsoftは、過去6か月でAIが人を補助する段階から攻撃を指揮する段階、さらに自律的な実行へと急速に移りつつあり、AIが組み立てた攻撃活動も実際に観測し始めたとしました[8]。

  7. 2026年10月21日

    国家に連なる攻撃者が数百組織への攻撃をAIで自動化

    Microsoftは、Storm-0940が2026年9月にはARTEXを使い、世界の数百組織への攻撃を自動化していたと報告しました。標的化の大半は成功しなかったものの、短時間で多くの組織のクラウドに特権的な足場を得たとしています[10]。

80〜90%

GTG-1002の戦術的な作業のうちAIが担った割合

Anthropicの分析。人の重要な判断は1回の攻撃キャンペーンあたり4〜6か所程度[1][19]

3時間未満

標的化から特権アクセス取得まで

Storm-0940がARTEXを使った複数の事例(Microsoft)[10]

2,250超

Storm-0940がサインインを試みたテナント

ConnectWiseのクラウドアプリへの不正アクセスの後、ARTEXで試行。標的化の大半は不成功(Microsoft)[10]

24時間未満

脆弱性の発見から悪用可能になるまでの中央値

Microsoftは「大きく下回る」とし、企業の修正には30〜60日かかりうるとしている[8]

Anthropicの報告では、標的を選び、攻撃の仕組みを組み立てたのは人でした。その後はAIが対象組織のシステムを調べ、弱点を探し、認証情報を集め、盗んだデータを情報としての価値ごとに分類するところまでを、人の監督を最小限にして進めたとされています[1]。ピーク時には毎秒複数件のことも多い数千件の要求を出しており、人間のチームには不可能な速さだったと同社は述べています[1]。

Microsoftが報告したStorm-0940は、2021年から活動する中国国家に連なる攻撃者で、従来からパスワードスプレー(よく使われるパスワードを多数のアカウントに試す攻撃)や公開アプリの悪用で侵入し、クラウドに連携したアプリに資格情報を追加して居座る手口を使ってきました[10]。今回はARTEXでこれを機械の速さに引き上げました。Microsoftの評価では、Storm-0940はConnectWiseのクラウドバックアップ(旧SkyKick)に関わるアプリのIDを奪った後、顧客側のテナントへの認証を自動で試しています。一部の環境では、ディレクトリの偵察、アプリの資格情報の変更、特権ロールの変更まで進みました[10]。ConnectWise自身も、Cloud Backupに関わるアプリケーションの資格情報への不正アクセスを公表しており、2026年10月26日(UTC)の更新時点でも復旧作業を続けています[20]。

エージェントは、人間を縛る制約を受けません。昼夜を問わず、週末も休日も動き続け、複数の侵入経路を同時に試せるため、標的を選んでから目的を果たすまでの時間を大きく縮め、サプライチェーン攻撃のような複雑な攻撃の速さと影響を増します。

Agents are not constrained by factors affecting humans – they can work around the clock, on weekends, and on holidays and attempt multiple breach paths simultaneously enabling significantly reduced time from selecting a target to achieving objectives, increasing the speed and impact of complex attacks like supply chain compromises.

— Microsoft Security Research / Microsoft Threat Intelligence[10]

検知と対策のいたちごっこにも変化が出ています。Anthropicによると、ロシア系のGTG-20006は、自分たちのマルウェアがセキュリティ製品に検知されたかをAIエージェントに監視させ、検知されると作り直させていました。同社は、これまでは新しい検知ルールを配備すれば攻撃者の動きを遅らせられた可能性があったが、AIがそのコストを防御側に押し戻し、少なくとも理論上は検知の配備より速く回避できるようになったと指摘しています[2]。

言葉の壁も低くなりました。GTIGは、文法の誤りや不自然な言い回しといった従来の見分け方が通じにくくなり、何往復も自然なやり取りを重ねて信頼を築いてから攻撃に移る手口まで出てきたとしています[5]。OpenAIも、中国語の攻撃者がAIから得た利点は新しい攻撃能力ではなく、言葉の流暢さ、現地の言い回しへの対応、粘り強さだったと分析しています[7]。警察庁も、AI技術の発達で文章の自然さや偽装の精度が上がり、見抜きにくいフィッシングが増えているとしています[12]。

「AIが自律的にハッキングする」はどこまで本当なのか?

報告を読む限り、「人が標的と方針を決め、AIが手足として大量の作業をこなす」段階までは来ていますが、人間抜きで国家レベルの攻撃が完結している状況は確認されていません。Googleは2026年9月時点で、完全に自律した攻撃の仕組みが実際の標的に使われた例はまだ観測していないとしています[6]。ただしGoogleは、AIエージェントや自動化の取り込みが進んでいることから、攻撃者のAIの使い方がその方向へ進みつつある可能性があるとも書いています[6]。

主要な脅威レポートが「AIの役割」と「限界」について書いていること
報告元(時期)AIの役割として報告したこと報告元自身が書いている限界・留保
Anthropic(2025年11月)GTG-1002は偵察や侵入などの戦術的な作業の80〜90%をAIに担わせた[1][19]AIは存在しない認証情報を作り出したり、公開情報を機密と取り違えたりした。完全自律の攻撃への障害だとしている[1]
Anthropic(2026年9月)報告した攻撃(同社が注目事例として選んだもの)の過半で、AIが直接の実行役または指揮役だった[2]攻撃の標的を決め、持ち出したデータを確認したのは人だった[2]
Google GTIG(2026年2月)LLMは国家支援型攻撃者の調査・標的選び・フィッシング文面に欠かせない道具になった[5]脅威の構図を根本から変えるような飛躍的な能力の獲得は、まだ観測していない[5]
Google GTIG(2026年9月)中国系のスパイ活動グループが、AIで自動ペネトレーションテストの仕組みを設計しようとした。別の中国系グループは、複数のLLMを使って侵入と侵入後の作業を自動化する仕組みを組み立てていた[6]前者は仕組みづくりの試みにとどまった。完全自律の攻撃パイプラインの実戦投入はまだ観測していない[6]
OpenAI(2025年10月)中国語・韓国語の攻撃者が、フィッシング文面やツール開発にAIを使った[7]新しい戦術や、新たな攻撃能力をもたらした証拠は見つからなかった[7]
Microsoft(2026年10月)AIが補助から指揮、自律実行へ移りつつあり、AIが組み立てた攻撃活動も観測した[8]複雑な侵入の多くは、今も人が意味のある指示を出している[8]

各社は、自社のAIサービスや観測網で見えた範囲を報告しています。時期の違う報告を並べているため、後の報告ほど新しい状況を反映しています。

これは、完全に自律したサイバー攻撃が突然当たり前になったという意味ではありません。現実の複雑な侵入の多くには今も人間による意味のある指示が伴いますが、かつては希少な専門知識と作業時間を必要とした仕事を、AIで加速し、繰り返し、任せることがますます可能になっています。

This doesn’t mean fully autonomous cyberattacks have suddenly become the norm. Most complex real-world intrusions still involve meaningful human direction, but work that once consumed scarce expertise and operator time can increasingly be accelerated, repeated, or delegated to AI.

— Microsoft — 2026 Digital Defense Report[8]

日本の組織はどのように狙われているのか?

日本では、安全保障や先端技術に関わる組織を狙う中国の関与が疑われるスパイ活動と、暗号資産や外貨を狙う北朝鮮系の活動が、政府によって公表されています[11][13]。入口は、実在の人物を装ったメールと、インターネットに公開されたVPN機器などの脆弱性が中心です[11]。

MirrorFaceの3つの攻撃キャンペーン(警察庁・内閣サイバーセキュリティセンター、2025年1月8日公表)
キャンペーン時期主な標的侵入の入口
A2019年〜2023年シンクタンク、政府(退職者を含む)、政治家、マスコミに関係する個人・組織[11]マルウェアを添付したメール[11]
B2023年頃から半導体、製造、情報通信、学術、航空宇宙の各分野[11]インターネットに接続されたネットワーク機器の脆弱性[11]
C2024年6月頃から学術、シンクタンク、政治家、マスコミに関係する個人・組織[11]マルウェアをダウンロードさせるリンクを記載したメール[11]

内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は2025年7月に国家サイバー統括室(NCO)へ改組されています[12]。

メールの作り込みは周到です。送信者名には受信者が所属する(または所属していた)組織の元幹部や、関心のある分野の有識者が詐称され、件名には「日米同盟」「台湾海峡」「勉強会案内」など受信者の関心を引く言葉が使われました[11]。最初は添付ファイルを付けず、資料の提供を申し出てやり取りを重ねてから送った例もあります[11]。キャンペーンCでは、詐称された送信者が過去に第三者とやり取りしたメールを盗み、一部だけ書き換えて送っていたとみられ、文面に違和感がなかったとされています[11]。

キャンペーンBでは、VPN機器の脆弱性や何らかの手段で得た認証情報の悪用、外部公開サーバーの脆弱性によって侵入されたとみられ、その後Active Directoryサーバー、Microsoft 365、仮想化サーバーへの侵害が確認されています[11]。侵入後には、Windowsの標準機能を悪用してウイルス対策ソフトやEDR(端末の不審な挙動を監視する製品)の監視を逃れたり、開発ツールの機能を遠隔操作に使ったりする手口も確認されています[11]。

2026年に入っても状況は続いています。警察庁は、2026年上半期に政府機関や大手製造業者への情報窃取を目的としたとみられるサイバー攻撃や、研究機関などへの不正アクセスが相次いだとしています。同庁が設置したセンサーで検知した、攻撃の前兆にもなる脆弱性探索などの不審なアクセスは、1日・1IPアドレスあたり1万3,687件と前年比50.7%増で、その大部分が海外からでした[12]。

警察庁は同じ報告書で、AIで自動化したサイバー攻撃が今後増える可能性に触れ、国家を背景とする攻撃グループがAIを使って人間の介入なしに攻撃を実施したとの民間企業の報告があると紹介しています[12]。警察庁は報告元を挙げていませんが、同種の事例としてAnthropicが公表したGTG-1002の報告では、表現は「大きな人の介入なしに(without substantial human intervention)」で、標的の選定と1回の攻撃キャンペーンあたり4〜6か所の重要な判断は人が担っていました[1]。国内のWebサイトでも、AIを使った攻撃ツールの悪用は確認されています。JPCERT/CCは2026年10月23日、国内で相次ぐ不正アクセスの注意喚起に、ARTEXなどAIを用いたペネトレーションテスト基盤を悪用した攻撃試行を追加しました。ただし、この注意喚起は攻撃者を特定の国家やAPTグループと結び付けてはいません[16]。

APT攻撃の典型的な侵入の流れは?

編集部が公表事例とAIの悪用報告をもとに整理すると、APT攻撃はおおむね「下調べ→入口の突破→居座り→内部の探索→持ち出し」の順に進みます。GTIGは、攻撃者が偵察から持ち出しまで攻撃のすべての段階の強化にAIを使い続けているとしています[6]。どこか1か所で止められるように、段階ごとに守りを置くのが基本です。

APT攻撃の流れと、AIが使われる場面・防御の要点(編集部が一次情報をもとに整理)
段階攻撃者がすること(公表事例)AIが使われた報告防御の要点
1. 下調べ標的の組織・役職者・関心分野を調べ、なりすます相手を決める。MirrorFaceは受信者が所属する(所属していた)組織の元幹部や関心分野の有識者を詐称した[11]公開情報を集めて重要な標的の人物像をまとめる。北朝鮮のUNC2970は防衛・セキュリティ企業の職種や給与の情報まで調べた[5]役職者・研究者の公開情報を把握し、なりすましに使われやすい人ほど確認手順を徹底する
2. 入口の突破標的型メール、VPN機器などの脆弱性、偽の求人や面接[11][13]自然な現地語の文面や、何往復も続く信頼づくりのやり取り[5]。日本語のフィッシング文面[7]公開機器の修正、フィッシングに強い多要素認証、送信者を別経路で確認する
3. 居座りWindowsの標準機能で監視を逃れ、開発ツールの機能を遠隔操作に使う[11]。クラウドの連携アプリに資格情報を追加する[10]検知されたマルウェアをAIエージェントが作り直す[2]使わない機能を止め、連携アプリへの資格情報の追加や権限の変更を監視する
4. 内部の探索Active Directoryサーバー、Microsoft 365、仮想化サーバーへの侵害[11]AIが社内の端末を洗い出し、認証情報の使い回しなどで権限を広げた(中国語話者のスパイ活動)[2]ログを別の場所に集めて長く保存し、特権アカウントを分けて最小限にする
5. 持ち出し安全保障や先端技術に関する情報の窃取[11]盗んだデータをAIが情報価値で分類したり要約したりする[1][6]大量のダウンロードや転送を監視し、保存期間を過ぎたデータを残さない

段階の分け方は、IPAの整理[18]とMirrorFaceの注意喚起[11]をもとに編集部がまとめたものです。

下調べから入口の突破、居座り、内部の探索、持ち出しまで、組織のネットワークを奥へ進む侵入経路と、各段階に寄り添うAIエージェントを表した概念図
APT攻撃は段階を追って組織の奥へ進み、AIはその各段階で使われ始めている(概念図・編集部の整理)

編集部は、AIが加わっても段階の順序そのものは変わらないと考えています。Microsoftも、侵入・居座り・データ窃取・スパイ活動といった、ほとんどの攻撃者の目的は変わっておらず、AIは同じ目的を追うための力を与えているとしています[8]。

Microsoftは、侵入の多くは今もエクスプロイト(脆弱性を突く攻撃コード)ではなく人や認証情報から始まるとしています[9]。同社の検知・対応サービス(Defender Experts)のデータでは、観測された初期侵入の30%がユーザー自身による実行、20%が正規アカウントの悪用でした。同社は攻撃者のやり方を「信頼されているものをたどる」とまとめています[8]。

採用・業務委託に紛れ込む北朝鮮IT労働者にどう備えるか?

北朝鮮のIT労働者は、身分を偽って各国の企業から仕事を受注し、その収入は核・ミサイル開発の資金源になっていると、日本を含む各国政府が警告しています[14]。採用面接ではAIの顔画像交換ソフトも使われており、映像の印象だけで本人と判断しない手順が必要です[13]。

3万台以上

WaterPlumのマルウェアに感染したとみられるPC

2025年12月頃〜2026年7月、日本を含む100以上の国と地域[13]

7千件以上

窃取された暗号資産ウォレットの情報

警察庁などの合同文書[13]

約17億円相当

WaterPlumが管理するウォレットへの送金

少なくともこの額の暗号資産が送金されていた[13]

2026年9月18日に警察庁と国家サイバー統括室が米国・豪州・ドイツの機関と合同で公表した文書によると、WaterPlumはヘッドハンティングを装い、正規のAI企業や暗号資産企業、人材紹介サービスなどになりすまして世界中のIT技術者に近づきます。技術面接やコーディング課題を口実に不正なプログラムをダウンロードさせ、端末に入り込みます[13]。日本では初めて、国内の支援者の自宅に置かれ、北朝鮮IT労働者が遠隔操作するPC(ラップトップ・ファーム)を把握して解体し、一部のメンバーは日本や米国の企業でWebシステムの設計・開発の仕事に就いていたことも明らかにされました[13]。

AIの使い方も具体的に書かれています。WaterPlumのメンバーは「Magicam」などのAIの顔画像交換ソフトを使ってオンライン面接を受け、数分使った後はネットワークの不調を口実に映像を切るよう仲間内で助言し合っていました。音声読み上げソフトで日本語の発音を練習し、機械翻訳や生成AIの無料サービスも多用していたといいます[13]。

海外でも同様の報告があります。FBIは2025年1月、北朝鮮IT労働者がビデオ面接でAIと顔の差し替え技術を使って正体を隠していること、発覚後に盗んだコードやデータで企業を恐喝した例があることを警告しました[15]。Anthropicは、北朝鮮の工作員が同社のAIで偽の経歴を作り、技術試験を通過し、採用後の業務までこなしていたと報告し、AIが「訓練に何年もかかる」という制約を取り払ったと指摘しています[3]。

国内でも、北朝鮮IT労働者とみられる人物が暗号資産取引事業者のエンジニア職に応募した例が公表されています。面接では、出社を拒むか先延ばしにする、暗号資産での給与支払いにこだわる、しきりに別のモニターを見て読み上げるような様子がある、背後で他人の声が聞こえる、映像が途切れる、といった特徴が見られ、同社は不審な点に気づいて採用しませんでした[13]。外注先の北朝鮮IT労働者が、報酬をめぐるトラブルの際に担当していたプログラムのソースコードをインターネットに公開した事例もあります[13]。

企業はAPT攻撃にどう備えればよいか?

AIを使う攻撃者に対しても、効く対策の中心は変わりません。Microsoftは、AIは弱点を見つけやすく、攻撃を相手に合わせて作り込みやすく、規模を広げやすくするものの、適切に管理されたID(アカウント)を過剰な権限を持つものに変えたり、公開していないサービスを公開状態にしたりはできないとしています[8]。編集部は、変えるべきは対策を回す速さだと考えます。

APT攻撃への主な対策と、その根拠となる一次情報
対策止めたい段階具体的にやること根拠
ネットワーク機器の脆弱性管理入口の突破VPN機器などの修正を急ぐ。国家を背景とする攻撃で悪用が指摘された脆弱性があれば、修正後もログで侵入の有無を確かめ、侵害された機器は交換する警察庁・NISC[11]
認証の強化入口の突破・内部の探索フィッシングに強い多要素認証やパスキーを入れ、特権アクセスを厳格に管理するMicrosoft[9]
連携アプリと権限の棚卸し居座りクラウドに連携したアプリの権限と同意を最小限にし、資格情報の追加や特権の付与を監視するMicrosoft[10]
ログの集中保存内部の探索機器やサーバーのログを別のサーバーに集めて長く保存し、海外からのログインなど「普段と違う」記録を確認する警察庁・NISC[11]
使わない機能の停止居座り業務で使わないWindows Sandboxを無効にし、意図しないVS Codeの導入や、その開発トンネル機能の通信がないか確認する警察庁・NISC[11]
人による確認手順下調べ・入口の突破いつもの相手からのメールでも違和感があれば、添付やリンクを開かずに送信者や社内のシステム管理者に確認する。採用や外注では本人確認を厳格にし、できるだけ対面の手続きを入れる警察庁・NISC[11]、日米韓など[14]、FBI[15]
AIの鍵と連携の管理すべての段階業務で使うAIのAPIキーやAIエージェントの連携を、本番環境の資格情報と同じ重さで扱うAnthropic[2]

2026年10月27日時点。製品や環境によって具体的な設定は異なります。

今月中に確認すること(情シス・総務・人事向け)

  • インターネットに公開しているVPN機器・ファイアウォール・リモート接続機器を一覧にし、JPCERT/CCやIPAの注意喚起、米CISAのKEV(悪用が確認された脆弱性の一覧)に載った脆弱性が残っていないか確認する[11]
  • 管理者用・保守用アカウントのアクセス元を制限し、長期間ログインのないアカウントを止める[11]
  • Microsoft 365などのクラウドに連携しているアプリを一覧にし、権限と同意を最小にして、資格情報の追加や特権の付与を監視する。侵害が疑われる連携は、削除する前に設定とログを保全する[10]
  • 機器とサーバーのログを別の場所に集め、海外からのログインや普段と違うUser-Agent(接続元のソフトの識別情報)の記録がないか確認する[11]
  • 役員・研究者・広報など、なりすましの起点になりやすい人に、パスワード付きZIPやVHD・ISO形式のファイル、クラウドストレージのリンクで届く資料は送信者に確認してから開くよう周知する[11]
  • エンジニアの採用や外注の手順に、身分証の照合、連絡先への電話、経歴やスキルの具体的な質問、暗号資産での支払い要求の有無の確認を入れる[13][14]
  • 社外から受け取ったコードや面接の課題は、仮想マシンなどの隔離した環境で実行する。VS Codeでは自分が関与していないプロジェクトを「制限モード」で開く[13]
  • 業務で使うAIのAPIキーとAIエージェントの連携先を一覧にし、本番環境の資格情報と同じように保管・更新する[2]

経営層への報告では、「AIで攻撃が新しくなった」よりも「攻撃が速くなり、修正までの猶予が短くなった」と伝えるほうが実態に近いでしょう。Microsoftは、脆弱性が悪用可能になるまでの中央値が24時間を大きく下回る一方、企業の重大な外部脆弱性の修正には30〜60日かかりうるとしています[8]。この差を縮めることが、予算と人員を割く理由になります。

対策が実際に働くかは、平時に試してみないと分かりません。役職者になりすましたメールや電話、偽の面接にどう対応するかを訓練で確かめ、公開機器や連携アプリの穴をペネトレーションテストで洗い出しておくことは、AIで加速する攻撃への備えになります。こうした攻撃の種類はAI詐欺・ハッキングの手口で、訓練やテストの形式は訓練・テストのメニューで紹介しています。

まとめ

APT攻撃は、国家などを後ろ盾にした攻撃者が特定の組織に長く居座り、情報や資金を奪う攻撃です。2025年から2026年にかけて、攻撃者はAIを調べものや文面づくりに使う段階から、AIエージェントに攻撃作業の多くを任せる段階へ進みつつあると報告されています[1][8][10]。日本でも、MirrorFaceのような長期のスパイ活動や、AIで正体を隠して採用に紛れ込む北朝鮮IT労働者の手口が公表されています[11][13]。

ただし、人間抜きの完全自律の攻撃が広がっているわけではありません[6][8]。Microsoftは、AIは以前からある弱点を見つけやすく、突きやすくするものの、適切に管理されたIDや公開していないサービスを弱点に変えることはできないとしています[8]。編集部は、公開機器の修正、連携アプリと権限の棚卸し、ログの別保存、送信者や応募者を確かめる手順という基本を、これまでより短い周期で回すことが、AI時代のAPT攻撃対策の出発点になると考えます。よくある疑問はよくある質問にもまとめています。

よくある質問

APT攻撃とは何ですか?

国家などを後ろ盾にした攻撃グループが特定の組織を長期間にわたって狙い、侵入後も潜伏しながら機密情報や資金を盗む攻撃です。Advanced Persistent Threatの略です。日本では、中国の関与が疑われるMirrorFaceや、北朝鮮を背景とするWaterPlumなどの活動が警察庁などから公表されています。

APT攻撃と標的型攻撃の違いは何ですか?

標的型攻撃は、特定の組織や人を狙う攻撃全般を指す言葉です。APT攻撃はその中でも、国家などの豊富な資源を背景に、侵入後に長く潜伏して目的の情報にたどり着くまで攻撃を続けるものを指すのが一般的です。入口として標的型メールが使われることも多く、両者は重なり合っています。

攻撃者はAIで攻撃を完全に自動化しているのですか?

一部では、AIが攻撃作業の大半を担った事例が報告されています。Anthropicは、中国の国家支援型と評価するグループが偵察や侵入などの戦術的な作業の80〜90%をAIに担わせたと公表しました。一方でGoogleは2026年9月時点で、完全に自律した攻撃の仕組みが実際の標的に使われた例はまだ観測していないとしています。これまでに報告された事例の多くでは、標的の選定や重要な判断は人が担っていました。

日本企業もAPT攻撃の標的になっていますか?

なっています。警察庁と内閣サイバーセキュリティセンターは、MirrorFaceが2019年頃から日本のシンクタンクや政府関係者、半導体・製造・情報通信・学術・航空宇宙分野などを狙ってきたと公表しました。2026年9月には、北朝鮮系のWaterPlumがIT技術者を狙い、北朝鮮IT労働者が日本企業の仕事に就いていた実態も公表されています。

専任のセキュリティ担当者がいない組織でもできる対策はありますか?

あります。VPN機器などインターネットに公開している機器の修正、管理者アカウントの整理、多要素認証の導入、クラウドに連携したアプリの棚卸し、ログの別保存は、専任者がいなくても始められます。違和感のあるメールや応募者を、電話など別の手段で確かめるルールを社内で決めておくことも有効です。

北朝鮮IT労働者の採用を防ぐにはどうすればよいですか?

身分証の厳格な確認、連絡先への電話、経歴やスキルの具体的な質問、できるだけ対面での手続きが勧められています。暗号資産での支払いへのこだわり、出社の拒否、面接中の映像の乱れや別のモニターを読み上げるような様子は注意すべき兆候です。AIの顔画像交換ソフトが使われた例もあるため、映像の印象だけで判断しないことが大切です。

出典・参考資料

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  20. 公式発表Cloud Backup (formerly known as SkyKick) Service InterruptionConnectWise Trust Center 2026-10-16 公開 2026-10-27 閲覧

本記事の事実関係は、2026.10.27 時点で上記の出典をすべて再確認しています。

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